とある書類に、マイナンバーを書けと言われている。書かなきゃいけないのだという。
でも、僕は自分のマイナンバーをまだ知らない。
マイナンバーの通知は、不在票を放置したから、もらい損ねている。
面倒なことになった。
わからないから、記入欄に当てずっぽうで書こうかとも思った。適当に書いたやつがたまたま当たっていれば、万事解決だからだ。
だが、12桁もあるらしいのだ。12桁が当たるとは到底思えない。もし当たっても、これが宝くじだったらと、一生悔やみ続けることになるのは間違いない。
と、なると役所に聞きに行かなければならないのだろう。
そこにはたくさんの公務員がいて、それぞれ、僕にはなんだかよくわからない仕事をしている。
僕が近くの公務員に「自分のマイナンバーがわからないから教えて欲しい」と言うと、別々の仕事をしていた公務員たちが、急に手を止めて、いっせいに僕の方を見る。すこし間があってから、また元の仕事に戻る。
最初の公務員は、眉根を上げ、「気にするな」と言いたげな微笑を浮かべながら、マイナンバー担当の公務員を紹介してくれる。
「君みたいな人も、ここにはよく来る。心配いらないよ」そう言って、マイナンバー担当の公務員は、僕を椅子に座らせると、遠くの方で分厚いファイルを開いて、僕のマイナンバーを調べ始める。
しばらくすると、ファイルに視線残したまま、こちらに向かって手招きを始める。
僕が行くと、マイナンバー担当の公務員は「一度しか言わないからよく聞いててね」と言って、僕の耳にマイナンバーをそっと囁く。
……そうか、それが僕の番号だったのか。……思っていたより、美しい……。
マイナンバー担当の公務員に礼を告げて、僕はその場をあとにする。
あとは、忘れないうちに、書類に番号を書くだけだ。
書いたあと、僕は思うのだ。マイナンバーを書いたからといって、僕は何も変わっていない。ただ、マイナンバーは確かにここにある。僕には確かにマイナンバーがあったのだ、と……。
そんなことになるのか~。面倒だな~。役所行きたくないな~。
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