A:小学生3年生くらいのころ、プールに行ったときです。
僕はみんなと違ってエラで呼吸することができなかったので、水が怖く、小学校3年生の段階でも、泳ぐことができませんでした。
それでも、努力の甲斐あって、ようやくバタ足で泳ぐことができるところまでこぎつけたころ、友人T君とプールに行きました。
さっそくできるようになったバタ足を披露すると、T君は「すごいすごい、それに手をつければ、クロールができるよ」と、誰もが気付かなかったすごい真実を教えてくれました。
クロールができるようになれば、もう泳げないコンプレックスともおさらばです。かっこよく泳いで学校に通う姿を、みんなに見せつけることができます。
さらにT君は「よし手の練習をしよう。俺が足を持っててあげるから、こうやって手をまわすんだよ」と、クロールの練習の協力を申し出てくれました。
浮いた状態で両足を持たれた僕は、こんな感じかな? と両手を交互にまわしてみました。
「そうそう! いいよ~」というT君の声に、安心しつつ、クロールの手の練習を続けていると、ふと、あることに気付きました。
あれ? 息が苦しいぞ。
思えば、つい最近、バタ足で前に進めるようになったばかり。息継ぎの仕方がわかるわけがないのです。
今まで僕が見てきたクロールを思い出すと、なんか器用に横に顔を向けて息継ぎをしてるようでしたが、あれは、厳しい訓練をつんだ人だけができる、途方もなく高度な技術にしか思えませんでした。
そんなことを考えている間にもどんどん息が苦しくなってきます。
あまりの苦しさに、半ばパニックでした。
(やばい!!急がないと!!)
僕は、手の回転スピードを上げ、必死に水をかきました。
しかし、両足を持たれた状態なので、一向に前に進みません。それどころか、ますます苦しくなるばかり。
というか、もともと急いでどうなるものでもありません。
(もうだめだ!!死ぬ!!)
そう思った瞬間、僕の体は、自分でも驚くような動きを見せます。
僕は、ありったけの背筋力で、伏臥上体反らしのごとく、体を大きく反らして、がばっと、水面から上半身を起こし上げたのです。
その瞬間、腰に激痛が走りました。
声にならない痛みでした。
その動きに驚いたT君の手からは開放されたものの、再び水にたたきつけられ、沈みこんだ僕は、簡単に足がつくはずのプールの底で、たくさんの水を吸い込みながら、腰の痛みにもだえました。
水とプールの底に塗られたペンキが、ただ青く視界を埋める中で、何かにしがみつこうと、もがきながら、あちこち手を伸ばし続けました。
その後は、必死だったのでよく覚えていませんが、どうにかプールの縁にたどり着き、プールサイドへ這い上がると、腰をおさえ、うつむきながら、何も言わずにそのままプールを後にしました。
死ぬかと思いました。
それ以来、僕は無口で笑顔を見せない子供になりましたとさ。
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