モグラは穴を掘って、進んでいた。
未来の方に向かって。
もう、どれだけ堀っただろう。
いつまで掘っても、土ばかりで、何も変わらない風景が続く。
「もう、疲れた。掘るのをやめよう」
正面の土の壁を背にして、寄りかかってみると、今まで自分が掘ってきた、土のトンネルがそこに、たしかにあった。
自分以外だれも通っていない、自分だけの道だった。
「よく、ここまで掘ったなあ、でも、何のために掘っていたんだっけ?」
自分の道のずっと奥に、想いを巡らせる。
はじめは、掘ることしかできなかったから、掘り始めた。そのころは、うまく掘れなくて、すぐに手を痛めていた。
だんだん、掘るのがうまくなってきて、手を動かして掘ることが、足を動かして進むことが、楽しくなってきたから掘り進んだ。
そのうちに、何があるのかわからないけど、このままいけば、この先に何かステキなものが待っているような気がして掘り進んだ。
「そうだった。でも今はもう」
今はもう、掘るのも楽しくないし、ステキな何かが待っているような気もしなくなっていた。
変わってしまったんだなあ。あのころとは。なにもかも。
なにもかも?
背にしていた土の壁に向き直った。
掘りはじめたころより、大きく、強くなった手で、その土をえぐってみる。
あっさりと、土は足元に落ちた。
「いや、この先に何があるのかわからないのは変わってない」
モグラは再び、穴を掘って、進んだ。
「あ、そういえば、掘ることしかできないのも変わってないや」
未来の方に向かって。
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